バイクという乗り物を語るとき、多くのライダーはエンジンの鼓動感やマフラーから響く排気音の心地よさを挙げます。お腹に響く重低音や、高回転まで回したときの突き抜けるような高音は、確かにバイクの大きな魅力の一つです。そのため、モーターで走る電動バイクに対して、無機質で物足りないというイメージを持つ方も少なくありません。しかし、実際に電動バイクと共に時間を過ごしてみると、その静けさが単なる欠落ではなく、これまでにない新しい豊かさを生み出してくれることに気づかされます。今回は、音が消えることで見えてくる、新しいバイクの楽しみ方について綴ってみたいと思います。
エンジンの振動が消えた先に感じる浮遊感
長年ガソリン車に乗り続けてきたライダーが初めて電動バイクに乗ると、まずはその違和感に戸惑うはずです。セルボタンを押してもキュルキュルという音もなければ、アイドリングの振動もありません。アクセルをひねると、ヒュイーンというわずかなモーター音とともに、車体が滑るように前に進み出します。最初はエンジンの爆発がないことに寂しさを感じるかもしれませんが、しばらく走り続けると、その感覚は不思議な心地よさへと変わっていきます。それはまるで、魔法の絨毯に乗って地面の少し上を滑空しているかのような浮遊感です。
内燃機関特有の微振動がないということは、ライダーの体に蓄積される疲労が劇的に減ることを意味します。長距離ツーリングの後半で感じる手足のしびれや、体全体に残るけだるさが驚くほど軽減されるのです。振動というノイズが消えることで、タイヤが路面を捉える感覚や、サスペンションが動く様子がより鮮明に伝わってくるようになります。マシンとの対話が、大声で叫び合うようなコミュニケーションから、ささやくような繊細なやり取りへと変化する感覚と言えるでしょう。この滑らかなライディングフィールこそが、EVバイクがもたらす新しいスポーツ性なのです。
自然のサウンドトラックを聴きながら走る喜び
排気音が消えたことで得られる最大の恩恵は、周囲の環境音との調和かもしれません。山道を走っているとき、ガソリン車ではエンジンの轟音にかき消されていた鳥のさえずりや、木々が風に揺れる音が、ヘルメット越しにクリアに聞こえてきます。海岸線を流せば、波が打ち寄せる音と潮風の音がBGMになります。自分のバイクが発する音が景色を邪魔しないため、あたかもその風景の一部に溶け込んだような没入感を味わうことができるのです。
これは、ソロツーリングだけでなく、仲間とのマスツーリングにおいても大きな変化をもたらします。インカムを使って会話をする際、バックグラウンドノイズが圧倒的に少ないため、まるで静かな部屋で話しているかのようにクリアな音声で会話を楽しむことができます。声を張り上げる必要もなく、お互いの息遣いさえ感じるほどの距離感で、感動をリアルタイムに共有できるのです。また、街中を走っているときでも、周囲の車の気配や歩行者の話し声に気づきやすくなるため、安全運転にもつながるという副次的なメリットもあります。静寂は、ライダーの五感を研ぎ澄まし、世界をより鮮やかに感じさせてくれるフィルターのような役割を果たしてくれます。
時間と場所に縛られない自由なバイクライフ
静音性は、ツーリングの体験を変えるだけでなく、バイクに乗るシチュエーションそのものを広げてくれます。住宅街に住んでいるライダーにとって、早朝や深夜の出発は常に気を使う問題でした。暖機運転の音を響かせないように大通りまでバイクを押して歩いたり、帰宅時にはエンジンの音を気にして遠くでエンジンを切ったりした経験がある方も多いでしょう。しかし、電動バイクであれば、そんな気苦労からは完全に解放されます。
キーを回した瞬間からスタンバイOKであり、走り出しても聞こえるのはタイヤのロードノイズくらいです。家族が寝静まっている深夜にふと思い立って夜景を見に行ったり、夜明け前の澄んだ空気を吸いに早朝の峠へ向かったりすることが、誰にも迷惑をかけずに可能になります。ご近所トラブルを心配する必要がないという精神的な余裕は、バイクに乗る頻度を自然と高めてくれるはずです。社会との摩擦を減らし、もっと自由に、もっと気軽に走り出せること。これこそが、現代のライダーにとって最も必要な性能なのかもしれません。音がないということは、何かを失うことではなく、新しい自由を手に入れることなのです。
